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『Jリーグで最も過大評価されている選手の1人』
近年では、彼をこう評価するサッカーファンは少なくなかった。
C大阪在籍時の2017年、22得点を記録し、大ブレイクを果たした。同年A代表に選出され、同年オフにはスペイン1部のヘタフェより獲得オファーを受けた。未来の日本代表を担っていくストライカーとして期待されていた。もしもスペインに行っていたら…というタラレバをどうしても想像してしまう。この時期は彼のキャリアの絶頂期と言える。
しかし、その後2018年に加入した浦和レッズでは不遇の時を過ごすことになる。様々な要因があるだろうが、怪我をしたことも大きな要因の一つだろう。
『2017年の年末に左足首の手術をして、その感覚がよくなくて......。』(Web Sportiva)
怪我をして以降、好調を極めた2017年のような感覚でプレーすることが難しくなり、独力で強引に局面を打開してゴールにねじ込むようなシーンは見られなくなった。ストライカーとしての怖さがなくなった印象。得点パターンは限定的で、得意のヘディングか、PKだけという状況だった。
その後、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田と移籍を重ねるも、結果を残すことができなかった。ジュビロ時代はJ2でもプレーしたが、J2でも目立った結果を残すことが出来なかった。
キャリアの大半以上をJ1でプレーしてきた彼だが、C大阪で22得点を挙げたシーズン以外は目立った実績をあげられていない。彼のポテンシャルを考慮すれば、やや物足りなさはある。
しかし、サッカーの神様はまだ彼を見離してはいなかった。J3大宮への移籍、長澤監督との出会いが彼のキャリアを大きく好転させる。2024年、J3大宮へ期限付き移籍で加入すると、リーグ戦34試合に出場し、10得点7アシストを記録。大宮のJ2昇格に大きく貢献し、J3ベストイレブンに選出される大活躍を見せた。
近年、思うような活躍を出来ていなかった彼が、どうしてこれほど活躍できるようになったのか。
『どうせJ3だから活躍できたんでしょ?』
そんな声も聞こえてきそうだが、間違いなくそれはNOだと言い切れる。なぜなら、J3は簡単に活躍出来るような甘いリーグではないからだ。では、なぜ大宮に移籍して活躍出来るようになったのだろうか。そこには、プレースタイルと起用方法が影響していると考える。
長澤監督に見出された1.5列目としての適正、ストライカー 兼 チャンスメイカーとして覚醒
Embed from Getty Images浦和、横浜、磐田では最前線のthe CFで起用されてきたが、大宮では主に1.5列目で起用された。football-labによると、出場34試合のうち20試合はOMFで起用されている。この1.5列目起用がガッチリとハマった。最前線にはCF ファビアン•ゴンザレスやCF オリオラ•サンデーが入り、その後ろにOMF 杉本とOMF アルトゥール•シルバが1.5列目として控える形。FWの周りを衛生的に動き回り、最後は自身もゴール前の危険な位置に飛び込んでいく。
もともと足元の技術が高く、ボールキープ能力に長け、ラストパスの精度が高い。フリックやワンタッチプレーで狭いスペースを攻略するサッカーIQの高さがある。そうした特徴を踏まえて、長澤監督は杉本を1.5列目に抜擢したと予想される。
2024年、J3で7アシストを記録し、多くのチャンスクリエイトでチームに貢献した。
加えて、やはり188cmの大型ストライカーなので、ポストプレーやヘディングの強さを備えている。そもそもヘディングやポストプレーについてはJ1でも十分に通用する程高い水準にあった。
Embed from Getty Imagesなので、やはりヘディングやポストプレーにおいてJ3では明らかに群を抜いていた。腕を巧みに使って軽々と相手DFをホールドして、簡単にボールをキープする。味方の押し上がりを促し、攻撃の起点として機能していた。10得点のうち5得点をヘディングで決めており、相手CBの頭上から頭を振って強烈なヘディングを叩き込んだ。J3には彼を止められるDFはいない、そう思わずにはいられないほど圧倒的だった。クロスポールがずれても、無理な体勢の場合でも、枠に持っていける技術の高さは流石だった。
また、プレーエリアの広さにも驚かされた。どっしりゴールに構えるのではなく、1.5列目で積極的にボールを引き出し、攻撃の組み立てに関与する。サイドに流れてボールをキープしたり、最前線でクロスを待つ場面もある。様々なところに顔を出し、最後はゴール前に入り込んでいく。自身が得点を取るのは勿論、チームの攻撃をいかにオーガナイズするかという点への配慮も感じられた。実際、この部分の貢献は数字にも表れている。football-labによると、杉本のパスレシーブ回数はリーグ7位を記録した。攻撃におけるボールの中継地点として機能した。
長々と語ってきたが、まとめに入ろう。昨季の活躍の要因は、ヘディングやポストプレーといった元々の強みを活かしつつ、チャンスメイカーとしての新たな役割を開拓できたことが最も大きな要因だろう。彼の適性を見抜いて、チャンスメイカーとしての役割を与えた長澤監督の手腕も見事だったと言える。
チームを鼓舞する精神的支柱としての役割も努めた。ハードワークでチームに喝を入れる姿も印象的。
Embed from Getty Imagesクラブ史上初めてJ3降格を経験した大宮アルディージャだが、杉本曰く、加入当初はぬるい雰囲気が溢れていたと言う。
『最初は厳しさだったり、互いに要求する部分だったり、まだまだだった。戦うところ、走る、技術もそう。』
J1、J2と高いレベルでプレーしてきた杉本だからこそ、感じたことなのだろう。杉本は、チームとして厳しくやる箇所を徹底すること、お互いに高い水準で要求し合うことという意識を持ち込んだ。J2から降格して嫌な雰囲気が漂うチームに喝を入れ、引き締まった戦える集団に変えようと。杉本の存在•発言がチームにとって良い刺激になったのは間違いない。
そのおかげもあり、大宮は手堅い戦い方でJ3を制覇した。全員がハードワークを惜しまず、手堅い展開に持ち込み、決定機を確実に仕留める。劣勢の中でも持ち堪えながら、数少ないチャンスを決めて勝利を手にする試合も多かった。内容が悪くても勝てる、そんな勝負強さが光るチームだった。
チームの勝利の為に戦う。
今季の彼は、この言葉が一番似合う選手だった。
『自分が決めなくてもチームが勝てればいいと思っているので。チームのためにプレーするだけですし、それが結果的にゴールやアシストにつながってくる。』
最後尾まで猛烈ダッシュでプレスバックをして、全力でボールを奪いに行く。J3 第10節 vsアスルクラロ沼津での試合のこと。沼津FW 森夢真が大宮陣内の左サイドでボールを持った際、前線から杉本が猛烈ダッシュでプレスバック。勢いそのままに森夢真に強烈なタックルを仕掛けて、PA内への侵入を阻んだ。プレスを受けて後向きでボールを持つ森。さらに追い打ちを掛けるように、杉本は低重心で腰を落として激しいプレスを仕掛け、タッチライン際に追い込むと最後はマイボールのスローインにした。お互いにチャージが激しくなり、杉本は少しヒートアップしてしまったが、チームの為に熱く戦う姿が垣間見えたシーンだった。
また、長澤監督との出会いは杉本にとってとても大きかっただろう。
『監督は他の人が評価しないところを評価してくれる。そこはすごい。点を決める選手、アシストする選手だけじゃなく、それ以外で選手の価値を評価する監督なので、すごく1人1人がやりがいを感じていると思う。ただ、点を取っている奴が偉いとかそうではなく、なぜ点を取れたのかをすごく見ていて、得点までの過程がすごく大事だと言っているので、これだけぶっちぎりで得点を取れているのはそういうところにも理由があると思う』(スポーツ報知)
杉本は上記のように語り、得点以外の部分における貢献度を高く評価されることで自信に繋がっているようだ。実際、今季の杉本は得点以外の部分での貢献度が非常に高い。例えば、攻守におけるハードワーク、ポストプレーでタメを作る、正確なラストパス、1.5列目で味方を活かす動きなど。もちろんストライカーなので得点も重要であるが、今季は10得点を挙げているので申し分なく、ストライカーとしての役割も見事に果たした。
サッカーに対する向き合い方の変化、『本当に楽しくできている』と語る
Embed from Getty Images大宮加入以降、杉本はサッカーに対する向き合い方を大きく変えた。具体的には、試合前に対戦相手の映像を見て分析をするようになったことだ。相手チームの映像を見て、分析を繰り返し、自身のプレーに落とし込む作業を地道に積み重ねてきた。
『毎週、毎週、相手チームの映像を見て、取り組んで、試合に向かう作業を本当に繰り返した。今まであんまり見てこなかったけど、今は相手の試合(の映像)を前日にフルで見るからね』(スポーツ報知)
その結果が、2024年の10得点7アシストという結果に繋がっているに違いない。得点•アシストという目に見える結果以外にも、味方を活かす動きやポジショニング、効果的なランニングなど、多様な面で高い貢献を見せた。
さらに言えば、32歳とベテランながら1.5列目として新境地を開拓出来たのも、熱心に分析を繰り返した賜物なのだろう。32歳になって新たなポジションに挑戦することは容易ではない。
浦和レッズ時代の2019年には、遂にサッカーが楽しくないと感じるようになっていた。思うように結果が出ず、批判の声が大きくなり、もどかしい日々を過ごした。
Embed from Getty Images正直、練習に行くのもイヤでした。とにかく、朝がくるのがイヤなんですよ。『もう朝か。もう(練習に)行かなあかんのか......』って感じで。(今ある現状から)逃げ出したかったですね」(Web Sportiva)
そんな苦悩の時期を過ごした彼だったが、大宮では心の底からサッカーを楽しめるようになった。厳しさや競争の中で、チームの為に戦い、チームに必要とされる喜びを噛み締め、本当の意味でのサッカーの楽しさを実感しているようだ。
『本当に楽しくできている。ただ単に楽しいだけでなくて、厳しさやチーム内での競争、全部を含めて『生きている』と感じる。』(スポーツ報知)
2025年、新境地を開拓した杉本健勇のJ2での活躍に期待!RB大宮の躍進にも注目が集まる。
「RB大宮ファン、サポーターの皆さん、メリークリスマス! さぁ、一緒に始めようか。快進撃を」
杉本健勇が大宮アルディージャと契約更新を発表した際のメッセージだ。
長年本来の実力を発揮できずにいたが、J3大宮でかつての輝きを取り戻し、新生RB大宮とともにJ2の舞台に殴り込む。32歳とベテランの域に突入したが、まだまだ衰え知らずのストライカー。昨季のプレーが出来れば、J2でも間違いなく活躍出来るはずだ。RBが経営権を取得して上昇気流に乗る大宮アルディージャをJ1に導けるか。新加入のFW 豊川雄太、 FW カプリーニら、J2有数のタレントとの共演も楽しみだ。1人のサッカーファンとして、人知れず苦労をしてきた彼がJ2で大爆発する姿を見たい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。